遠来のお客様?
         〜789女子高生シリーズ 枝番?

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


       




お耳が少し尖り気味で三角に立っており、何とも野性的な風貌だが、
胸元にはふかふかの綿毛、長じると襟回りにもという
ゴージャスな毛並みが特徴の長毛種で。
仔猫の間は他の仔と変わらない体型なのだが、
運動不足に気をつけてあげないと、
太りやすいことでも知られておいでの
実は大型猫なのがメインクーン。
三木さんチの令嬢が可愛がっておいでのくうちゃんは、
出会いが少々特殊だったせいと、
何故だかどんな動物にも好かれまくりなお嬢様が
殊の外 大切に、
自宅にいるときは妹御のように(引用間違い・笑)
いつも傍らに侍らせているせいか。
まだ2年仔のはずが、
結構いい体格になりつつあるから困ったもので。

 『肩へ飛び乗るぞ。』
 『いや、そういうことが出来る出来ないじゃあなくて。』

いっそ わんこ扱いして、
庭先でいいから木登りとかさせてやんないと、
しまいには自分で動けないほどの“どすこい”になっちゃいますよと
そんな風に注意したこともあった猫ちゃんだけれど。
今の今、貫禄のある重みをお膝へ感じつつ、
一緒にいてくれることが そりゃあ心強いと感じた白百合さんで。

  だって、此処って……

急な風が吹きつけたことと、
そういや、お天気は不安定と
ニュースで言ってたのを仄かに思い出してのこと。
さっきまでいたサンルームが
不意な曇天で陰っているのかと思ったが、

 “どうやら、全然違う場所みたいだよねぇ…。”

いつぞやのヴァイオリン盗難事件のおり、
久蔵の伝手の誰か様の辣腕で、ほんの数分だけ費やして、
よくある公民館をログハウス風の外装に作り替えちゃった話は聞いたけど。
数分どころか瞬く間というほどに短い刹那で、
床を三和土(たたき)にしの、四方を板の薄べりで囲いの、
よくよく見れば
錆び付いたそれだろう古めかしい農具をあちこちへ立て掛けの。
仕上げにと、薄暗くした部屋の中をかび臭い匂いで満たすところまで、
そりゃあ徹底されたこの拵えを持って来て、

 “エイプリルフールのつもりかなぁ?”

ウチのは旧暦で…なんて言うにしたって、
それだと確か21日、例の金環食が起きる日のはずで。
……って、
何でそこまで御存知な白百合さんなのでしょうか。
(笑)

 “第一、そうだとしても…。”

さっきは“コスプレ?”と感じた装いの勘兵衛が
数mほど先の囲炉裏端に座しているのだが。

 「………。」

何でだろ何でかな。
江戸村とか映画村とかいう種のテーマパークへ
ご一緒した覚えはないのに、
こういう古民家の中に佇んでおられる姿や構図に覚えがある。
それも、一度や二度ほど見た覚えがという浅いものじゃあなく。
此処での生活をしておいでなのへ、
お茶を出したり、綿入れを肩へ掛けたり。
お帰りになったおりに居合わせておれば、足をすすぐ用意をしたり。
そういうこまごまとしたお世話をした覚えがあったし。
彫の深さから生じる陰が、
燭台の灯火のまたたきに合わせて揺れている横顔の、
お懐かしい渋面を黙って見守りつつ、
ああ軍にいた頃を思い出しますなぁなんて、
胸の内で思った、り……………って、それって。

  “……………………………、まさか、ねぇ?”

ここもシリーズの長さは度外視していただいての話。(こら)
高校へと上がってからという、
まだまだ思い出したばかりにも等しい遠い記憶の中の、
自分にとっては最も印象深い頃合いの出来事。
今の生での仲良しさんたちと、実は既に出会ってた騒動の舞台でもある

  “神無村、なの?”

そこだとて、久蔵や平八も知っている場所。
勘兵衛だって、
年次という意味でも年齢という意味合いでも自分たちよりずんと前、
物心つくころにはすっかりと詳細までもを思い出していたという話だから。
数人分の記憶を突き合わせれば、
水も漏らさぬ舞台装置くらい、作れなかなかろう顔触れじゃああるけれど。
わざわざそんなことを、しかも今日する意味なんてなかろうに。
勘兵衛だとて、

 “そうよ、確か
  連休最終日の混雑に紛れてっていう
  何かお務めがあるような無いようなって。”

勘兵衛ではなく、その補佐役の佐伯刑事が、
場所や内容までは言えないけれどと、
さりげなく
“今日は忙殺されよう勘兵衛だから、連絡も取れないだろう”との旨を
教えてくれてはなかったか。

  だったら、この、
  どこから見ても自分の慕う壮年に似た人は誰なのか?

 「………。」

居場所への把握と、
でもそこへ立つなんてあり得ないことだという不整合。
目の前にいる人への認知や情と、
でもそれって…という矛盾を悟れる理性とが、
先程の目眩どころじゃあない不安となって
七郎次の思考や心情へ押し寄せかかるが、

 「まぁう?」

お膝に抱えた小さな重みと、手へと伝わるふわふかな毛並みの温みとが、
しっかりしなきゃという心持ちを意外と支えてくれている。
そんな中、はっと思い出したのが、

 「…っ。」

そうだ確かめようはあると、
マキシスカートの腰あたり、ポケットへと手を入れて、
取り出したのが…スリムなモバイル。
ワンアクションでぱかりと開けて、二つ折の液晶部分を立てると、
住所録の一番最初、
初めてのケータイを買ってくれた父が設定したまま、
ついつい新しいのへもその順の入力になっている自宅への電話をと、
短縮ボタンを操作しかかったものの、

  「あ…。」

最近滅多に見なくなった、圏外のマークが指を止めさせる。
掛けた相手がというのはまだまだたまにあるけれど、
自分の側が“圏外”の地にいるなんて、
少なくとも都心近郊の一般家屋にてはあり得ない話じゃあなかろうか。
そのまま固まってしまいそうになっている少女をどう思ったものか、

 「……お主。」

それほど大きな声ではなかったが、
それでも胆力と要領を得ておいでのそのお声は。
数m先の、しかも深い落胆へ肩を落としている
絶望しかけの少女へもよく届き。
はい?と、ほぼ自然反射でお顔を上げた七郎次へ、

 「シチロージに姉妹は、
  姉君しかおらぬと聞いていたのだがな。」

ともすれば仄暗い屋内だというに、
その視線を真っ直ぐ、
こちらの目線を逃さぬという冴えで届けてくるのが、
今の立場では正直おっかない。
疚しいところはないけれど、
此処が何処かが確定したと同時、
まずはあり得ないレベルでの
“迷子”だということも確定した訳であり。
心細いと思う間もなく、

 “選りにも選って、
  勘兵衛様の吟味にあうこととなろうとは。”

だって此処はきっと あの“神無村”だ。
一体何がどうしてという理屈や何やは判らないけれど、
この古びた農家には覚えがあるというのが、
記憶から肌身へ じわじわと染み出してくる。
野伏せり退治にと招かれた侍たちの
詰め所としてあてがわれた大きめの空き家で、
上がり框の下には
里の人々が薪や炭を持ち込んでくれており。
この世界では、そしてこんな寒村では
なかなか手に入りにくいだろう塩や味噌も分けていただいたこととか。
外への板戸は開けたてにコツが要ることとか、
その傍ら、大きな壷は水瓶で、
元からあったのは底から水漏れしていたからと
新しいのを据え替えていただいたとか。
各所へ散って作業や指南に当たっているお仲間のうち、
なかなか休憩に戻らぬ人らを連れ戻すことへも
結構頭を痛めた思い出までもが蘇っていたところへと、

 「…っ。」

こちらが何とも答えぬからか、
板の間に立ち上がってのすたすたと、歩み寄ってくる気配が立った。
こんなところへ突然姿を現したなんて、不審者以外の何物でもなかろう。
それがたとい十代の小娘であれ、
今はまだそういう懸念もある時代。
そう、あのホノカという娘がそうだったように、
何を盾にされているかによっては、
とんでもないこと言い含められても従ってしまうもの。
たとい戦中時代であっても理不尽で惨いことに変わりはないが、
それでも…そんな殺伐とした風潮が
当然ごととしてまだまだ居残る世界だったと覚えている。
ああ、どんな言い訳をしても無駄だろな。
だって当事者の私からして、原理や道理というところが判ってないこと。
時間や次元の壁を越えたらしいなんてこと、
きっちりと説明できる自信はまるでない。
しかも敵対する陣営の一部には、
自分たち…もとえ、侍たちという助っ人が来たことも知れていた筈で。
村人たちの腕が上がったことから哨戒に回り始めた久蔵なぞが、
あの大きな滝壺など、
前からいた見張りも難所だから必要なかろと見回ってはなかった外延で、
入り込まんとする鋼筒や甲足軽を
見かけて切ったとの報告をこそりと寄せてもおいで。
それ以降、その近辺は
久蔵や五郎兵衛、時には自分もという、
腕に自信の侍たちが特に見回るようにしていたほどで、

 “目眩ましがてら、生身の娘なんて駒を
  投じて来たかと思われてもしょうがない。”

村の人々を集めて首実検すれば、
あっと言う間に此処の住人ではないことくらい割れてしまおう。
いやさ、そうまでせずとも、
この身なりや野良仕事には縁のない手指などからお里も知れるというもので。

 「……。」

そうこうするうちにも、
框の上というこちらへぎりぎりの間近まで、
板の間を歩み寄って来た勘兵衛であり。
身をすくめてはいたが、目を逸らすのは許されぬまま、
かすかに震えながらもただただじっとしておれば。
白い衣紋の壮年殿が、次いで訊いたのが、

  「…その変わったタヌキもお主の連れか?」

膝に抱えていた くうちゃんを指してだろう、
いきなりそんな、見当外れなことを訊かれてしまい、

 「いえあの、この子はこれでも猫ですが。」

放られた一言で、ぽんと何かが軽やかに弾けた。
自分をこそ何物だろかと吟味されているのだと思いきや、
彼が見ていたのはもっと下だと示されて。
応じる言葉を紡ぎつつ、自分のお膝をちらと見下ろせば。
そちらからも
小さな存在がひょこりとお顔を上げての小首を傾げて見せて。
ねぇ?と、女の子同士で目と目を合わせたほんの一瞬ののち、
お顔を上げ直した七郎次は。

 “あ……。”

再び見やった格好の、ここ神無村の司令官殿が、
たいそう穏やかに微笑っているのに気がついた。
こちらの目が慣れたこともあろうし、
奥の間ほどではないながら、
こちらの部屋にも小さな連子窓から多少は陽が射していて。
それで見て取れたお顔のうち、
口許がほころんでおいでなだけじゃなく、
あまり表情を映さぬようになって久しい昏色の目許も、
やんわりとたわませておいでであり。
それがあんまり意外でと、呆気に取られて見惚れておれば、
そうまでの注視をますますと萎縮しているこちらだとでも思ったか、

 「困ったものよ。」

大きくて持ち重りしそうな骨太な手で、
顎の下へと蓄えた髭を撫でてみせる勘兵衛であり。
え?え? 何が何が?
こんな子供でも
怪しいとなれば牢屋に放り込んでおかなきゃいけないから
良心が痛むとか? と、自身の胸中で思ったものの。
そのままのすぐさま、七郎次が下した判定は。

 “………それは、ないな。”

こらこら、白百合さん…と。
ついつい“ふざけている場合ですか”と窘めかかったものの、
そんな解釈では勿論なくて。
ただでさえ勝ち目の薄い、難しい戦さを目前にして、
正念場への集中が高まっておいでだろうからこそ、
どんな些細なことへもきっちりと、温情抜きで対処なさるだろうなと。
そうという、元副官としての判断がもたらした答えであったらしく。

 “じゃあ、何が…?”

困るのだろかと 再び緊張し、細い肩をすぼめておれば、

 「本来ならば用心はいくらでもせねばならぬはずだが、
  どうしたものか、
  お主からは警戒する必要はないとの印象しか受け取れぬ。」

 「………はい?」

まま確かに、
タヌキと間違えたような小動物を抱えた、
まだまだ子供という年頃の小柄な少女を相手に。
それは人徳も厚く、太刀さばきの方も練達のもののふが、
一瞬の予断をも許さぬという級の、
どえらく逼迫した緊張感を抱きはせぬだろが。

  …とはいえど。

 “そ、そんなに…空気みたいに存在が薄いのかな、アタシ。”

  それとも、今のアタシって霊体みたいな存在なのかな。
  あ、いやいや、それだとくうちゃんのこの重さとか暖かさって質感は何だろ。
  それに、殺気だの戦況の空気だのには鋭い割に、
  情緒的には鈍感だった勘兵衛様に霊感があるとは思えないから、
  アタシもくうちゃんも両方とも見えてるのってのもおかしいし。

……と。
いくら衝撃的だったからとはいえ、
自分の胸のうちだというのをいいことに、
結構失礼な物言いもしておいでの白百合さんが、
先程ほどがちがちと緊張してはないと見て取ったものか、

 「シチロージが戻って来たら、あやつに是非とも逢わせてみたい。」

ふふと重ねて小さく微笑った御主。
そんなところにいつまでも座っておるでないということか、
白い手套をはいた手を軽く上げて見せ、
上へ上がっておいでというよに招いてくださったのであった。







BACK/NEXT


 *何ともゆっくりな進展ですいません。
  何せ異常事態で、
  しかもしかも片側だけは妙に事情が通じてるという条件下。
  おまけに、そんなご対面を、
  選りにもよって大タヌキ、もとえ、
  勘兵衛様を相手に体験しようとは…。
  言いくるめるなんて出来っこないし、
  敵の駒だと切り伏せられても文句言えないし。
  何より、勘兵衛様を困らせたくはないシチちゃんかもしれず。
  さあ、続きをお待ちあれ。
(こら)


戻る